何も文句は言えないのである。文明の進歩は必然的な趨勢であり、生活の向上はわたしたちが自ら望むところだから、喜んで感謝しなければならないのだろう。ただわたしは、私たちが豊かな生活を営むためには自然美を破壊しなければならない現代というもの、ないしはそういう成り行きをたどらざるをえない文明の宿命というものを、生活謳歌の中にうやむやに見過ごしてしまいたくない。良識や配慮にもかかわらず、現実の結果として自然美を損なう破壊行為とならざるをえない宿命の意味するところを、もっと真剣に見つめたいと考えるのだ。自然の美は無限のものだから、いくら文明が破壊をほしいままにしても、総体的にはほとんど影響がない、と安心していては取り返しがつかなくなるかもしれない。自然の美しさというものに、私たちの感覚が反応しなくなる可能性も、この文明の進歩は孕んでいる。いかなる破壊よりもはるかに完全で無欠なのは、わたしたち自身の心の破壊である。わたしが現代の宿命を見つめたいと思うのは、この恐るべき心の破壊が単に杞憂でない現象に見るからだ。