「まあまあ、そう落ち込むなって。ほらアイス買ってやっただろ」完全に声が

「まあまあ、そう落ち込むなって。ほらアイス買ってやっただろ」
完全に声が笑っている。さっきコンビニで買ってもらったアイスを片手に俺は何も言えなくなってしまう。貧乏学生には簡単に手を出せない高級バニラを買ってもらって、正直彼女の話はもういいかなあって思ってしまっているのも本当のことだった。バレている。
「くっ…なんたる子供扱い………！」
「はいはい」
カップの蓋を取り、下のビニールをぺらりとめくれば、真っ白でなめらかなバニラアイスが現れた。その様子を隣で見ていた先輩が口を開く。
「……………お前さあ、俺にすれば」
先輩の黒いスニーカーの先が足元に転がっていた小石を蹴った。それは数回バウンドし、雑草に紛れて見えなくなっていく。ぱっと顔をあげれば射抜くような真っ直ぐな視線と交わった。この表情を知っている。
「………御幸先輩」
「なんちゃって♡ あれ、本気にした？」
「…はあっ！？も〜〜！信じらんねえ………でも御幸先輩なら料理もできるし、たまに球受けてくれるし、楽しいかもしんないっすね！そうやってすぐ後輩をからかう性格を直したらの話ですが！」
「……ふ～～～ん？」
御幸先輩からはさっきのような真剣な表情は嘘のように消えていて、隣にはいつもの意地の悪い笑いを浮かべる男がいるだけだ。
「あ、そういや……先輩は全然彼女つくんないけど、好きな人でもいるんすか？」
「いるよ」
予想してなかった返答に、プラスチックのスプーンからバニラアイスがぼたぼたと零れ落ちてTシャツの裾が汚れた。
「俺はモテるからなあ」