彼に訊きたいことは色々あったのだが、翌朝には結局、彼の言う通りの時刻に馳せ参じた。指定されたのはとあるコンビニエンスストアの駐車場。店の前に彼はいた。黒のボストンバッグとネイビーのダウンジャケットを小脇に抱えている。服装は、綿のシャツにライトグレーのニットを重ね、下はブルーのボトム。私服姿の彼は言ったら悪いがどう見ても学生にしか見えなかった。
降谷くんはすぐにこちらに気付いた。傍に車を停めると、彼は助手席のドアを開けて車内にさっさと乗り込み、後ろの方に抱えていたその荷物を放った。おはようございます、と挨拶が来たのはその後だった。
「……君は、どこへ行くつもりなんだ?」
「首都高に乗りましょう」
俺の質問を無視して降谷くんは淡々と言う。
「僕が案内しますから、赤井は僕の言う通りに運転を」
「だから、どこへ?」
「だから、馬刺しを食べに行くんでしょうが」
昨晩から好きなことばかりを言い連ねているのにも飽き足らず、彼は俺の質問に気分を害した様子でくっきりと眉間に皺を刻んだ。こういう時に折れるのは俺の役目だ。いつのまにかそういう関係が成立してしまっている。
「なぁ、その荷物は何だ?」
俺は質問を変え、後部座席の荷物を一瞥する。彼はそこでやっと笑った。それは微笑んだというのではなく、何か悪戯を仕掛けようとしている子供のような含みのある笑顔だったが、とにかく笑った。
「赤井、明後日も暇ですか?」
だめだ、会話が全く成立しない。俺は諦めてギアを入れ、車を発進させた。