母は狼 俺は今、試練のときを迎えようとしていた。 目の前には銀色の体毛を持つ一匹の狼の姿。 その頭は俺の体の半分ほどの大きさがあり、いやに巨大に感じられた。 狼は低いうなり声を上げている。 緊張により、ごくりと生唾を飲み込む俺。 そして、ついにそのときはやってくる。 狼が、その口を開いたのだ。 真っ白な俺の指ほどもある白い牙がギラリと光り、その顎からはよだれがたれる。 とうとう来るか。いや、これは生きるため、越えねばならぬ試練だ。来るなら、さっさと来い! 覚悟を決めた俺に、狼は飛び掛った。 俺の体、四つ分ほどあるだろう巨大な狼だ。のしかかってくる重い体に非力な俺が耐えられるはずはない。地面に押し倒される。俺の口の下あたりに持ってこられる狼の鼻。食いちぎろうと思えば、たやすくノド笛を噛み切ることができる距離だ。 イヤに生暖かい息が俺の顔にかかり、そして狼は開いた顎を閉じたのだ。