五十日ばかりの後に、ある日荻原東寺にゆきて、卿公に礼拝して酒にえひて帰る。さすがに女の面かげこひしくや有けん、万寿寺の門前ちかく立よりて、内を見いれ侍りしに、女たちまちに前にあらはれ、はなはだ恨みていふやう、此日比契りしことの葉のはやくもいつはりになり、うすき情の色みえたり。はじめは君が心ざしあさからざる故にこそ我身をまかせて、暮にゆきあしたにかへり、いつまで草のいつまでも絶せじとこそちぎりけるを、卿公(きゃうのきみ)とかや、なさけなき隔のわざはひして、君が心を余所にせしことよ。今幸に逢まいらせしこさうれしけれ。こなたへ入給へとて、荻原が手をとり、門よりおくにつれてゆく