第 1 に,アジア北部民族における掛け合い歌を紹介し,その実際を明らかにするとともに,詳細な分析を行ったことにある。具体的には,内モンゴルのデーリンチャホラボーといった掛け合い歌について,先行研究を整理しつつ,掛け合いの実際を収録,分析し,その実際がいかなるものか示した。さらに,青海省チベット族の掛け合い歌エレシックも同様にその実際を明らかにした。アジア北部地域の掛け合い歌に関する論考は少なく,本論文はこの地域における研究を充実させたばかりでなく,アジア全体の掛け合い歌研究を推進させるものである。第2に,掛け合い歌の歴史的,社会的な成立,多様な様相や変容の姿について,綾織りといった概念で捉え,社会環境や音楽,詩の複雑な絡み合いや動的な変容の様相を明らかにしたことにある。この捉え方は,若干の脆弱性はあるものの,従来の掛け合い歌研究に新たな視座を与えるものである