うろたえながら、自分の体をかき抱くように触る。元から逞しい体ではなかったが、いま、シャツの布地ごしに触れる腕の細さ、胸の薄さは別人のそれとしか思えなかった。 吐き気にも似た動悸がする──意識を失ってから目覚めるまで、感覚的には半日も経っていないような気がするが、実際はそんなものではないとこの体が知らしめている。 とにかく誰か人に会いたい。いまの状況を把握したい。アキラはベッドからシーツを剥がし、それを力まかせに引き裂いて腰に巻きつけた。なにか武器になるものはないかと部屋に目を走らせてみたが、広い部屋のわりに家具はベッドと長椅子しかなく、諦めるしかなかった。 重い観音開きの扉を押す。扉の向こうはやはり大理石の、長々と続く廊下だった。飾り格子の窓からうっすらと陽が差し込んでいる。歩み寄り、窓から外を伺い見る。眼下には庭園があった。青い芝生の上に十字型の大きな花壇があり、名前の知らない白い花が咲き乱れていた。美しいはずなのに、アキラはその光景に不気味なものを感じた。人ひとりいないせいだろうか。そこに生の匂いはなく、白い花々はまるで墓標のように見えた。